「むかしのむかで館日記」（１）
こんなにむかでが嫌いになったのはいつからだったろう、
と思い出してみることにした。
小学生の頃は、実はむかでを見た記憶がないのであった。
見ていないはずはないのだが、全然、印象にないのである。
で、
最初にこの虫を、不気味な、得体の知れないものとして意識したのは
中学1年の夏のことだ。
当時、私と兄とは二人で一つの部屋を使っていた。
ある夜、何気なく壁を見ていたら、
黒光りして脚がたくさんあって大きな虫が、
わさわさと歩いているのである。
「え？」
と思ってじっと見ていると、
その虫は、
壁と柱の微妙な隙間に、当然のようにもぐりこんで消えていったのだッ。
「いったいどこに住んでるんだコイツは？！」という気色悪さは、
その姿とは比較にならないくらい強烈だった。
「・・・あ、あの、今、そこに「むかで」が・・・」
「ん？いないじゃないか。」
「だから・・・柱と壁の間に入っていった・・・」
「はあ？・・・まあ、この家にはそういう構造上の欠陥があるんだろうよ（笑）」
全く動揺しない兄を見習っていれば、
私の人生も少しは変わったのかもしれないと今にして思う。
（2007年7月23日記）